「生きるテーマは“ビジョン”です」ようやくたどり着いたコーチという仕事

岡部友理子さん

キャンピングカーに住むコーチ

1979年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学を卒業後、フリーのイラストレーターに。その後、大手IT企業にデザイナーとして従事する。コーチングを学び、2021年にプロとして独立し、『HAPPY COACHING COMPANY』を始動。現在は“キャンピングカーに住むコーチ”として、愛車のハッピー号をセカンドホームとし、日本中を旅しながらセッションやワークショップを行っている。
HAPPY COACHING COMPANY https://happy-coaching.jp/

弾ける笑顔で、手を振りながら駆け寄ってきた岡部友理子さん。太陽のようなエネルギーが、抑えきれずに全身から溢れ出している。仕事のこと、家族のこと、車で旅する暮らしのこと。熱のこもった言葉で、岡部さんのストーリーを語り聞かせてくれました。

何かに導かれるようにコーチングを学び始める

ーー岡部さんのキャリアはとてもユニークですよね。フリーのイラストレーターだったのが、IT企業に就職してUI・UXデザイナーになる。そこまではわかるとしても、コーチになるというのは、かなりの方向転換ではないでしょうか。

私は「ビジョン」をテーマに生きているので、コーチングとの出会いもビジョンとしか言いようがないのですが、そもそも父がコーチだったという背景があります。

ーーなるほど。まず、お父様の影響があったわけですね。

父がコーチで、母はカウンセラーでした。コーチングに当たり前のように触れている家庭環境は、めずらしいかもしません。父には、私にもコーチングを学んでほしいという思いがあったようですが、その当時の私はあまりピンときていなくて。

ーー何か、きっかけがあったんですか?

父が、2019年に他界しました。そのとき、「そういえば、私にコーチングを学んで欲しいと言っていたな」と思い出したんです。じゃあ、自己啓発というか、自分のための勉強として受けてみようかな、と軽い気持ちで基礎コースに申し込みました。そして初回のクラスを受けたら、もう、見えたんです。「私にはこれだ」と。3日間のコースだったのですが、最終日には「うん、うん…」と号泣しながら受講していました。

ーー岡部さんが言うところの「ビジョン」ですね。

これをやりたくて生まれてきたんだ、ということを思い出したような、不思議な感覚。その日にもう「私、プロのコーチになろう」と決めたんです。そこからは、会社に勤めながら、応用コース、上級コース…とひたすら勉強する日々。何かに導かれるように、突き動かされるようでした。私、「これだ!」と感じると、もう止まらなくなってしまうんですよ。それ以外のことは何も考えられないぐらい。ビジョンの力ですね。

ーーもはや「いい仕事がみつかった」とか、そんなレベルではない…。

ようやく私の人生がここに辿り着けた。これをやるために私が両親を選んで生まれてきたんだ、ぐらいの大きなものを感じました。で、実家の本棚を見ると、私の勉強に必要な本がすでに揃っているんですよ。

ーーお父様の本だ。

コーチには守秘義務があるので、生前の父の仕事内容までは詳しくわかっていませんでした。でも本を見て、ようやく父の言っていたことがわかり、「うんうん、そうそう」と。

ーーコーチのトレーニングを重ね、試験に合格し、資格を得て、プロになる準備がいよいよ整って、そこからは順調に?

当初は、会社に勤めながら副業で、と考えていたんです。デザイナーの仕事が好きだし、会社のみんなのことも大好きだったので。でも、これも不思議なのですが、「私、コーチになろうと思う」と話すと、誰1人止めなかったんですよ。

ーーそれぐらい、岡部さんがコーチになることが、周囲から見てもしっくりときていたんですね。

いきなり「独立する」と伝えても、家族は応援してくれました。ただ、家族で唯一の常識人である弟が、コロナ禍ということもあったので、「今じゃなくてもいいんじゃないか」と心配してましたね。それもわかる。大きな会社に勤めているんだし、副業だってOKなんだし。うんうん、そうだよね。わかるよ、言いたいこと。でも、私は大きな何かを受け取ってしまったの、もう決めたの!

ーー走り出したら一直線!もう誰にも止められない(笑)。

人生の制限を取り払いたくてキャンピングカーで暮らすことに

ーー岡部さんの独立するだけにとどまらない個性的なところが、“キャンピングカーに住むコーチ”という肩書き。しかも、運転免許を取るところから始めたそうですね!

会社を辞めた後、宮崎県の高千穂を旅行したのですが、たちまち好きになってしまったんです。でも、移動には車が欠かせない場所だから、「また行きたい!」と思い立っても、ひとりではどうにもならない。そこで気づいたんですよ、自分の人生の制限について。私は、誰かの車に乗せてもらうことしかできなくて、高速道路の仕組みすらわかっていなかった…。

ーー岡部さんの行動力を削いでいるのは、もしかしたら、「移動の自由」がないせいかもしれない、と。確かに、車があれば、思い立った瞬間に遠出ができますね。そこまではわかりました。それにしても、なぜいきなりキャンピングカーに?

無事に免許を取得した次の日に、美容院に行ったんですね。そこで渡された雑誌に、たまたま、トレーラーをセカンドハウスに改造して暮らしている素敵な人の記事が載っていたんです。その瞬間、脳内にシャララララ〜と…。

ーーまたもや、ビジョンが浮かんだんですね!キャンピングカーで暮らしている自分の姿が。

はい、止まらなくなってしまいました(笑)。美容院で髪をカットされながら、「私、これを買う」と。レンタカーで旅行するとか、2拠点生活をするとか、そういうことではない。私が欲しかったのは“動く家”! そうなったらもう“ハート駆動”で行動するタイプなので、すぐにキャンピングカーを探しはじめました。

でも、それこそ家のような大型のキャンピングカーを運転するには中型免許が必要で、それには、免許取得から3年以上が必要。『エアストリーム』のようなトレーラーは牽引車が必要とのことで、私には厳しそう。そこで目星をつけたのが、普通免許で運転できる、トヨタ『ハイエース』をベースにしたキャンピングカー『セレンゲティ』。新車だと高くてとても手が出ないのですが、たまたま名古屋のお店に中古車が1台あって。

ーーああ、もう目に浮かびます。一目散に名古屋へ駆けつける岡部さんの様子(笑)。

「すぐに名古屋まで飛ぶので待っててください!」と連絡して取り置きしてもらい、仕事を調整し、弾丸で向かいました(笑)。そして見た瞬間、その場で「買います」と。免許を取り立てで、車を買うのも初めてなのに!

出典:HAPPY COACHING COMPANY

ーーこうして実際に伺ってみて、驚きました。こんなにおしゃれなキャンピングカーがあるんですね! 『ハイエース』とは思えないぐらい、結構広く感じられて。

キャンピングカーのビルダーさんに全面塗装してもらったんです。内装デザインは、『キャンピングカーデザイン事務所 MeiMei』さんにお願いしました。私は、前職でDIY情報に特化したWEBメディアで働いていたので、そのときに出会った、DIYに長けた友人に内装のDIYをお願いしました。私も自分でペンキを塗りましたよ! 自分でデザインした、屋号のロゴを入れました。

ーーデスクもあって、キッチンもあって。「ハッピー号」という名前も素敵です。

初めて乗る自分の車がキャンピングカーということで、運転しながらヒヤヒヤしていました。ある日、関西のクライアントさんからキャンピングカーセッションのお申し出があったので、思い切ってハッピー号で行ってみることにしたんです。初の長距離運転の行き先が、まさかの470kmも先の琵琶湖のキャンプ場! ドキドキしながらハンドルを握り、とにかく前に、前に進むんだ…と無我夢中で運転しました(笑)。

ーー以前は高速道路の仕組みすら知らなかった岡部さんにとっては大冒険!

おかげで自信がついて、このハッピー号と一緒に、あちこちへ出かけられるようになりました。夏場は車中が暑くて苦労したり、衛星通信サービスの『スターリンク』を設置してネット環境を整えたり、試行錯誤したけれど、ようやく過ごしやすくなってきました。今ではキャンプ場に停めて野外で食事を作ったり、温泉に入りに行ったり、バンライフを満喫しています。

ーーうわぁ、楽しそう。自由に移動して暮らす今の状態が、岡部さんにとっての理想の生き方ということなんですね。

本当にそうです。ハッピー号で移動する暮らしもそうだし、自分で決断して実行するという働き方がいちばん私らしいと気づきました。

コーチとは、人生を一緒に旅する同士

出典:HAPPY COACHING COMPANY

ーーコーチングにはさまざまな手法があるのだと思いますが、岡部さんは、キャンピングカーでセッションされているんですよね。

「キャンピングカー・セッション」を行っています。クライアントさんのお住まいの近くのキャンプ場で待ち合わせをして、自然の中でセッションします。オンラインの場合も、私はハッピー号から行い、背景になるべく自然が映るようにしています。プログラムの最後の1回を、「キャンピングカー・セッション」にすることが多いです。

ーー自然が、セッションのプラスになる?

セッションは、場所も大事なんです。目に映る自然、聞こえてくる鳥の声。そういったものを感じながら、呼吸を整えて瞑想し、心を整えていきます。焚き火を囲みながらセッションすることもあるんですよ。

ーーコーチング・ワークショップも行っていらっしゃるんですよね。

小田原のキャンプ場をベースにした、複数人で体験できるワークショップです。お友だちを誘って来ていただいてもいいですし、おひとりでも参加できます。「なんか楽しそう」「キャンピングカーに乗ってみたい!」という動機でも全然OK!

ーーコーチングの第一歩として、初めての方には良さそうです。

私自身が外向型の人間で、外に出て自然の中にいると元気が出るんですよ。移動によってエネルギーが回り、どんどん自分らしくなっていっていると感じています。その人らしいエネルギーを回すこと、それが私のコーチングの目指すところでもあります。

ーー岡部さん自身が体現されているんですね。

コーチングを学びながら、私もここまで来ることができました。自分のことを深く知りたい、本当にやりたいことを見つけたいと思っていても、ひとりで辿り着くのは難しいですよね。そのために、トレーニングを積んだコーチがサポートします。1対1の対話によってクライアントさん自身に焦点を当て、気づきから生まれる意識と行動の変化を促し、自分自身とのつながりを取り戻していくことが、プログラムの意図するところです。セッションを通じて不思議なつながりがあり、私もクライアントさんから大事なものを教えてもらっているんです。

ーーいい大人になって、仕事に忙殺されていると、自分って何だっけ?ということすら考えなくなってしまうところがありますね。「このままでいいのだろうか」と思っていても、なかなか実際の行動には移せない…。

みなさん、サウナに行ったり、運動したり、体をメンテナンスしていますよね? それと同じように、心のメンテナンスも必要です。「なんかいつも疲れている」と感じているのだとしたら、エネルギーがうまく回っていない状態かもしれません。扉を開けて、少し風通しを良くしてあげると、本当の自分は何なのか、どう生きたいのかが見えてきます。

ーーコーチングに対して知識がないと、ハードルが高く感じられたり、カウンセリングとはどう違うのかなと思ってしまったりしますが、岡部さんのお話を聞くと、もっと身近なものと捉えていいんだなと気づきました。

コーチとクライアントさんは対等な関係です。コーチングは、苦しさを取り除く、救ってあげる、ということではありません。答えはその人の中にすでにあるから、そこに気づくだけ。私は、一緒にその旅をする同士のようなコーチでありたいと思っています。

撮影:聞き手クリエイション

藤島由希

「聞き手クリエイション」チーフクリエイティブプランナー。女性誌のライター、インタビュアーとして活動した後、WEBメディアのエディターへ転身。ライフスタイル系メディアの編集長を務め、現在に至る。