“春”のひだまりみたいな時を共に生きる。スコティッシュフォールド・はるくんが伝えたいこと。

はるくん

スコティッシュフォールド

2016年生まれ。夫妻と暮らすスコティッシュフォールドの男の子。お気に入りの場所はおとうさんとおかあさんのひざまくら。好きなおやつは「ちゅ〜る」。

ぼくの名前は、はる

ぼくは、「はる」。8さい。
5月生まれにちなんで、季節の名前をつけてくれたのはおとうさん。

「スコティッシュフォールド」っていうらしいけれど、よくわからない。
みんな、ぼくを見ると、垂れ耳がかわいいって言う。
ぼくがかわいいことは世界のジョーシキ。
どうしてニンゲンという生き物は、当たり前のことを繰り返し言うんだろう。

おとうさんとの出会い

おとうさんと出会ったのはもうだいぶ昔のような気がする。
ペットショップの小さなゲージの中で、ママが恋しくて鳴いていたぼくを見て、
いてもたってもいられず、うちに連れて帰ったとおとうさんは言うけれど、
ほんとかなあ。
ぼくがそんな弱虫なわけがない。

小さいときのことはよく覚えていないけれど、
新しいおうちの居心地の良さ、
おとうさんの手がとてもやさしかったことは覚えている。
「はる」ってはじめて呼ばれたときの、春のおひさまのようなあたたかい声も。

春、夏、秋、冬、3回目の季節が巡るころ、
ぼくとおとうさんの家に、女の子がやってきた。

はじめまして、おかあさん

「わたし、子どもの頃に犬に追っかけられたことがトラウマで、動物とどう接したらいいのかわからないの」

おとうさんが連れてきた女の子は、とても臆病な女の子だった。
ぼくに触れる手もなんだか不安そう。
ダメダメ。そんな危うい抱き方だと居心地悪いじゃない。
いきなり距離を縮めようとしないでよう。「シャーッ」って言っちゃうよ。

でもね、
ぼくは知っている。
おとうさんが女の子をとても大切に思っていること。
ぼくと仲良くなりたいこと。
慣れない手つきでお世話をしてくれていることも。

大人のぼくは、女の子に歩み寄ることにした。
そもそもぼくはニンゲンが大好きなんだ。
ツンデレなのは、ねこの性(さが)というものらしい。
そんなに怯えなくても大丈夫だよ、君も家族なんだから。

そう。このかわいい女の子は、やがてぼくのおかあさんになった。この家のこと、おとうさんのことはぼくになんでも聞いてね。

ぼくのお気に入りの場所

コロナ禍って知ってる?
よくわからないんだけど、おとうさんもおかあさんも、おうちにいることが多くなったときがあった。
ぼくは大好きなひざまくらをしてもらう時間が増えてとてもうれしかったけれど、ニュースを見るおとうさんとおかあさんはとても不安そう。

「はるがいてくれて良かった。君は最高の癒しだよ」
って言いながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。
ぼくも、おとうさんとおかあさんがいてくれて良かった。
これが「相思相愛」ってことなのかな。

お留守番のときはソファかベッドで眠ることが多いけれど、
おかあさんがおうちで仕事をしているときはテーブルの上がぼくの定位置。
なでてくれる優しい手が恋しくて、ついついじゃましちゃうのは許してよね。

そうそう。
大人なぼくは気づかないふりをしているけれど、
お留守番のときにカメラがぼくを撮っていること、知ってるよ。

遠くにいてもぼくのことを思っているんだよね。
やれやれ。
おとうさんもおかあさんも、心配性で困っちゃう。

グルメなぼく

ねこの8歳はニンゲンの年齢に換算すると48歳くらいなんだって。
つまり、ぼくはおとうさん、おかあさんよりも年上ってこと。
(ほうらね、やっぱりぼくは大人!)

「はるはシニアなんだからそろそろヘルシーなごはんにしようね」
シニア?ヘルシー?
近頃のカリカリごはんがおいしくないのはもしかしてそのせい?
グルメなぼくは断固として反対!
大好きな「黒缶」しか食べないもん。

そんな男らしいぼくを、おとうさんとおかあさんは少し困った顔で見つめる。
「健康のために、シニア用のごはんも食べてよう」

シニアのカリカリは好きじゃないけど、おやつの「ちゅ~る」をもっとくれたら食べてあげてもいいよ。
え、だめ?
戦いはまだまだ続きそうだ。

巡る季節と共に生きること。それがぼくとの約束

「言葉が通じない怖さがあったけれど、はると暮らすことで言葉なんてなくても、心は通じ合っていることがわかったよ」

これはおかあさんの言葉。
いつだってぼくは伝えている。
鳴き声で、しっぽで、耳で、あなたを見つめる目で。

ぼくの名前は、はる。
巡る季節のひとつから名付けられた。
穏やかな春のひだまりのようなやさしい時間を、一緒に生きること。
それがぼくとの約束。

おとうさん、おかあさん、
あふれんばかりの愛情を、ありがとう。
ぼくはちゃんとわかっているよ。
そのお返しに、たくさん長生きするから安心してね。
このかけがえのない優しい時間を、いつまでも。
約束だよ。

おだりょうこ

猫と旅、音楽と映画で形成されたライター&エディター。旅欲が止まらない旅ジャンキー。雑誌編集、テレビ局勤務を経てフリーランスに。料理は作るの食べるのも得意だったりする。